「多良木町に来たら、まず何を食べるべきか?」もしあなたが、そう質問をするとしたら、およそ86%の町民が「それなら、『よ志羽食堂』のよしば丼だ」と答えます。と思います。(筆者フルーマンの体感予測)
なぜなら、私もこの質問を数々の町民に問いかけたのです。そして、町民が口々に答えたのが「よしば丼」だったのです。
それほどまでに多良木ソウルフード不動の地位を獲得している『よ志羽食堂』とは一体何者なのか?そして『よしば丼』とは?そもそも『よ志羽』とは何なんだ?名字なのか?
まっっったく分からない!!!。
……ということで、迷わず行きます。行けばわかるさ。
●しかし、のっけから迷う
お店自体は町でも一番の大通り国道219号沿いにありました。うっかりすると見過ごすほどの忽然とした佇まいなので、きちんと調べて行かないと道に迷うことになります。正直私も2回程前を素通りしてしまい、順調にのっけから迷いました。
よ志羽食堂外観全貌。大きな看板とかは無いので素通り要注意。
そして、なんとか『よ志羽食堂』を見つけたとしても、入ろうかどうかを迷うことになります。なぜなら「只今営業中」となっているのにカーテン全締まりだからです。
(本当にやっているのだろうか?)(そもそも本当にここで合っているのだろうか?)という不安と疑念で胸がいっぱいになります。
しかし、私はすでに知っているんです。綿密な事前調査により、ここが町民の86%(筆者フルーマン体感予測)が推薦する『The 多良木ソウルフード』提供のお店だということを。だから迷わず入ります。
迷わず入ります。
入りますよ。
入りますよ?
●85才のお母さんが一人でキリモリしている
中に入ると………やっていた!
そして次の瞬間、圧倒的な「よ志羽ワールド」が眼前にひろがってきます。
客席は小上がりに靴を脱いで上がるシステムで、座布団は6枚ほどあります。
詰めると8人は座れそうですし、ホビット族なら12人はゆうに座れます。
小上がるとこんな感じです。カウンターごしに厨房の一挙手一投足が把握できる、流行の料理ライブ堪能型の内装です。
そして、さっそくに取材交渉をしてみると、お母さん照れに照れて取材拒否。さらに粘り強く交渉を続けると、いやヨいやヨも好きのウチの雰囲気となり、最終的にはOKとなりました。私も15年ぶりに女性を口説きましたが、お母さん「名前だけは教えられない」ということで、仕事だけのお付き合いになりそうです。
聞けばお母さん、旦那さんと共にお店を開業。始めは懐石寿司屋としてスタートしたそうです。残念なことに旦那さんに先立たれ、以来30年以上女手ひとつでこの店をキリモリしてきました。お母さんが一人で運営するようになってからは丼物を中心とした庶民的なお店に路線変更していきました。
- それは…(絶句)本当に大変でしたね。しかしよくここまで続けて来られましたね
- お父さん(旦那さん)に、鬼のごと仕込まれましたけん……
- なるほど…でも、そのおかげで今のお店があるんですね。お店はその後ずっとお一人で?
- はい。今年85才になりましたけん、もうそろそろ辞めようかなと……
- いやいやいや!是非お元気で続けて下さい……って85才なんですか!!!それはスゴい。お元気すぎる!
- ところで、お母さん。よ志羽食堂の「よ志羽」というのは、どういう意味なんですか?
- お父さん(旦那さん)がつけたとですが、私は意味がわからんとですよ
- なーにー・・・・
なんと、第一ミステリーだった「よ志羽の名前の由来」は「わからんとです」これは雲行きがあやしくなってきました。謎につつまれたまま、メニューに目をやります。
むむむむ…安い−!店内最高額のかつ定食でも800円という驚きの価格です。
そして、そんな中、唐揚が700円というビミョーな価格設定。かつ丼と唐揚が同額なのかー!などなどひとつずつメニューを検証していると……あ!あった!
ありました「よしば丼」!正しくは「よ志羽丼」と書くらしいです。
ということで、さっそくよ志羽丼についてお母さんに聞いてみました。
- お母さん、よ志羽丼というのはどういう食べ物なんでしょうか?
- かつ丼の衣が無いのが、よ志羽丼になります
- ころもが、無い。。。(だけ?)
- はい。味付けはかつ丼と同じです
- ・・・・・・。
これは意外な展開でした。私は豪華全部のっけ丼のようなゴージャス丼を想像していたのですが、それは俗物的で貧弱な愚か者の発想だと思い知らされました。
よ志羽丼とは、本来カツにつけていた衣を逆に取り去るというマイナスの美学、ミニマリズム丼だったのです。
そして尚かつ、かつ丼と同じ金額なのです。これは…よ志羽丼には、俗世界の常識を超える何か目に見えない素敵なサムシングがのっているのではないか…?
その目に見えない物を、私は見ることができるのか。
注文前から禅問答のように哲学的な問いかけをしてくる「よ志羽丼」。できる。出来すぎている。これは、もはや禅問丼と言わざるを得ない様相を呈してきました。
●ついに「よ志羽丼」を注文してみる
では、さっそくよ志羽丼を注文してみましょう。しかし、かつ丼とどう違うのか?を確認したい。それには、かつ丼とよ志羽丼との2つを頼まなくてはならない。どうしよう。。。
大丈夫です。
そんなこともあろうかと、本日は強力な助っ人に同行してもらっているのです。食レポには欠かせない非常に高い女子力を持つIWANOV(イワノフ)女史です。
ということで、満を持して注文しました「よ志羽丼」と「かつ丼」。そして助っ人がいることで、すこし調子にのり、さらに唐揚700円も頼んでみることにしました。
IWANOV女史は筆者と同じ投稿ページに載るのはちょっとイヤだから「顔は出したくない」ということでした。こちらも仕事だけのお付き合いになりそうです。そしてあまり女子力を載せられなくなったので、この後は筆者の男子力だけでのレポートとなります。
「注文いただいてから揚げてきますから、ちょっとお時間かかりますよ」
そう言うとお母さんは手際よく準備にとりかかります。
ええ、ええ。こちらはどんなに時間がかかっても大丈夫です。なぜなら、どれだけ時間がかかってもお客が退屈しないように「クッキングパパ」と「こち亀」がよ志羽ライブラリーに完備されているのです。このあたりにお母さんの優しさを垣間見ることができます。
厨房ではお母さんの調理が続きます。
まず、取り出した肩ロースのブロックを惜しげもなく分厚くカットしていきます。
これは、思っていたよりも結構ボリュームがある!
しかも、材料の豚はこだわり抜いた鹿児島の豚をわざわざ仕入れているとのことでした。
がぜん期待が膨らみます。
ジュワー!!
強火の鍋に肉をサッと入れます。こ、これはかなりおいしそう。カツの香ばしい香りが店中に拡がるとともに、こちらの期待も、さらにどんどん膨らみます。
「なんでもごちゃごちゃとまぜるのがキライ」というお母さんの方針にしたがって、ダシはカツオのみでとり、お米ももっとも近場で相性の良い「球磨産」でというシンプル方針が徹底されています。
●そしてついに「よ志羽丼」を実食
ついによ志羽丼の全貌が見えてきました。
手際よくお母さんが、よ志羽丼とかつ丼とを丼ぶりに盛りつけていきます。
こうして比べてみると、たしかによ志羽丼は「かつ丼の衣が無いもの」である。(だけに見える…)
……いや!ここからです。ここから私にも別の何か重要な違いが見えてくるはずだ!
じっくりと二つの丼ぶりを見比べていると、さっとお母さんが卵をかけます。
「できあがりましたよ」
卵をかけるとさらに違いがわからなくなっていく。。。
とにもかくにも美味しそうなよ志羽丼とかつ丼が目の前にできあがりましたので、いただくことにします!
まずは、かつ丼を。。。
!!うまい。
分厚いお肉がジューシーでこれはとてもうまいです!
かつ丼がこの美味しさだから当然よ志羽丼も、、、
よし。食べてみましょう。
うまい−!
…そしてかつ丼と同じ味です!同じ味なので微妙に同じリアクションになります。。。
いや、、、ちょっと待てよ。衣が無いから、ちょっとヤワらかい!(だけ、、?)
いやいや、ちょっとまてよ。IWANOV女史は何か気づいたかもしれない。どうだろうか?
「お・い・し・い」と満足げなヨシバスマイル。
そうなのです。おいしいのです。どちらも。
そう、そしてよ志羽丼は、たしかにかつ丼の衣が無いやわらかい食感(なだけ)なのです。
しかし、まだわからないのです。今回の最大のミステリーである
「なぜ衣が無いだけの『よ志羽丼』が生まれたのか?」
そして次の瞬間、悩める私をさらなる追い打ちが襲ってくることになりました。
「辛うございます」
このテーブルにちょこんと置いてある小瓶。いったい何が入っているんだ?「辛うございます」以外の情報はございません。ダークな遮光瓶に入っているから相当な劇薬なのか、はたまたこれも私のような未熟な人間を試す、よ志羽のお母さんの禅問答なのか。。。
よ志羽丼のことですっかり廻りが見えなくなっていたところに現れたこのダークホース遮光瓶。完全にスキをつかれて取材陣にも動揺が広がります。
わからない、、、。もうだめだ。
そこで、ここは恥を忍んでひとつお母さんに聞いてみることにしてみました。
「この『辛うございます』は何なんでしょうか…?」
- はい。これは柚子胡椒ですね。ものすごか、カラかですけんが。
ゆずごしょうだったー。
柚子胡椒は、柚子の皮、塩、唐辛子を刻んですりつぶし熟成させるという九州ならではのカラいカラい調味料なのです。そしてお母さんお手製のこの柚子胡椒にはタカノツメが使われているということでした。
ならば、「柚子胡椒」と瓶に書けばよいものを、お母さんはまず使う人のことを案じてとにかく「辛うございます」ということを先に知らせるのです。
このあたりにも、お母さんのにじみ出る優しさを感じずにはいられないのです。
この「辛うございます」は一緒に頼んだ唐揚げで頂いてみることにしましょう。
辛おいしーです。
カラっと揚がったカラあげに辛おいしい柚子胡椒が絶妙マッチ。脳に刺激をうけ過ぎたのか、気づいたらあっという間に「よ志羽丼」「カツ丼」ともに完食していました。
●そして、、、ついに「よ志羽丼」のナゾにせまる!
さて、美味しく完食してしまったのですが、結局「よ志羽丼」がなぜできたのか、私には理解できずじまいです。。。
このまま、おめおめとお店を出るわけにはいかぬ。。。
生き恥をさらすようではありますが、ここはもうひとつお母さんに直接的に聞いてみることにしてみます。
「あの−、『よ志羽丼』はどういった経緯で思いついたのでしょうか…?」
- はい。これはかつ丼の衣があると入れ歯の人が痛くて食べられないということで、衣の無い『よ志羽丼』をつくりましたけど。
- ・・・・
- ・・・・
そうだったのかーー。
何という優しさ。。
そして見えました。よ志羽丼にのっている素敵なサムシングが。
それはお母さんの優しさだったのです。
お母さんの溢れ出る優しさが、よ志羽丼の香りに乗って、店内からたらぎの町へとひろがり、そして宇宙へと広がっていくのがハッキリと見えました。
という訳でナゾは解明されました。
よ志羽丼とは、入れ歯用かつ丼だったのです。
入れ歯なら、よしば。
そしてもしも、あなたが、すり減るような毎日をお過ごしならば、今すぐよ志羽のお母さんに会いに行くことをおすすめします。
よ志羽のお母さんの優しさに、きっとこころも胃袋も満たされるはずです。
追記
2017年おしまれつつ、お母さん引退されまして、現在閉店となっております。
『よ志羽食堂』
多良木町役場近くで30年以上つづく、多良木町民の心の食堂。リーズナブルな丼物を中心に「Theおふくろの味」を提供し続けている。 ※掲載されている情報や写真については最新の情報とは限りません。必ずご自身で事前にご確認の上、ご利用ください。
- 住所
- 〒868-0501 熊本県球磨郡多良木町多良木1540
- アクセス
- 多良木駅から徒歩約5分
- 定休日
- 休業:お母さんに所用があるとき
- 電話番号
- 0966-42-2400