拳を極めし、世界王者が多良木に存在した!?人吉球磨に残る伝説のストリートファイト『球磨拳』の秘密に迫る。

拳を極めし、世界王者が多良木に存在した!?人吉球磨に残る伝説のストリートファイト『球磨拳』の秘密に迫る。

こんにちは。たらぎ町の魅力を探して、さまよい続けているフルーマンと申します。 今日は、ある1枚の絵を発見したこ…

こんにちは。たらぎ町の魅力を探して、さまよい続けているフルーマンと申します。

今日は、ある1枚の絵を発見したことから、まったくおもいがけず世界チャンピオンに出会ってしまったお話しをお伝えします。

はじまりは1枚の絵から

「世界最古の人形(かもしれない)」が収蔵されていることで有名な 『黒の蔵多良木町埋蔵文化財センター』(←最古の人形の話しはこちらのリンクをどうぞ!)に飾られたこちらの1枚の絵画。

・・・なんだろうか、一見普通に差し飲みをしているようにも見えるこの絵に、なんとなく殺気のような違和感を抱いて眺めていました。

「これは一体どういう状況なんだろうか、丸坊主の上下赤、青の半ズボンが膝をつき合わせて、何か笑っているような、メンチを切っているような、、」

しばらく悶絶しながら眺めること1分。

そこへ、多良木のことに詳しい町役場職員の永井さんが通りかかり教えてくれました。

永井さん:「あーコレは、クマケンをやっとるとこですね」

フルーマン:「クマケン???それは、、、蛇拳や蟷螂拳とおなじような系列の熊拳という拳法か何かでしょうか?」

永井さん:「一応お答えしますと、まずまったく違います。熊拳ではなくて、球磨拳(くまけん)と書いて、人吉球磨盆地に残る拳の遊技なんですよ。」

 

フルーマン:「遊戯??遊戯といえば『燃えよドラゴン』シリーズで有名な死亡遊戯みたいな危険な話しなのでしょうか?そんな恐ろしい拳法がこの多良木の町に!?」

永井さん:「一応お答えしますと、その遊戯とはまったく違いますが、丁度『王宮神社』でやっているので見に行きますか?」

 

フルーマン:「ドントゥシンク!フイィィィィィィル!」

 

というわけで実際の球磨拳が見られるという、多良木町の王宮神社へと向かうことになりました。

怒号が響く王宮神社境内

王宮神社につくと、熊本県内最古(応永23年(1416))という言い伝えのある、いにしえの唐様の楼門をくぐり、境内へと進みます。球磨拳はこの中で行われているということでした。

楼門をくぐる途中には、木造の仁王像が拳を振り上げ、いかにもイカツイ雰囲気がただよいます。まさか、この木人が最後動くとでも言うのだろうか、、、?いったい中ではどんな激しい戦いが繰り広げられているのでしょうか。

木人が動かないよう注視しながら、門をくぐり抜けた刹那!

「いーーーーっちょ!」

「いっっっっちょに!」

「いち!」

 

なにやら、境内からすさまじい怒号のような、雄叫びが聞こえてきます。こ、これは、尋常じゃないかけ声です。「アチョー!」でも「チェストー!」でもなく、「いっちょ!」とは、、?

これは、まったく聞いたことの無い流派のかけ声。はやる気持ちをおさえ、さっそく試合会場を覗いてみることにしました。

全身を青緑色に身を包んだ、拳を戦わす者たち

 

神社境内の中にある建物をおそるおそる覗くと、まず目にはいったのが、なんとも言えないグリーン色の道着に身を包んだ人たち。

そして背中には大きく「拳」と書かれています。畳の上に正座をした老若男女が整然と並び、向き合いながら己の拳をぶつけ合っています。彼らは皆黒肥地拳友会(くろひじけんゆうかい)という一派のようです。すさまじい拳さばきのスピード、止めどなく拳を打ち続けています。「ひー、ふー、さんの、、、」というかけ声のあと、お互いの拳を同時に出しています。グーパンや平手、中にはピストル型で出す者もいます。そして、相手の拳の風圧でか、転倒する者もいるなど、激しい雰囲気です。向き合った相手との間にはお酒があり、途中途中で酒も差しつ差されつしながら試合が続いています。この拳法には酔拳の要素もあるのだろうか、、、、一体コレは?、、、

見ているだけでは一向にわからないので聞いてみました。

しばらく見ていましたが、いっこうにルールも、そもそも何のために戦っているのかも分からないので聞いてみることにしました。

さて、さて球磨拳とはどういうものなんでしょうか?

「それでは、教えて差し上げましょう」

親切な近くの拳友会の方が教えて下さいました。

球磨拳(くまけん)とは?

球磨拳とは、熊本県人吉市周辺で遊ばれてきた拳遊びの一種で、0から5までの6つの形を作って同時に出し、その優劣を競います。江戸時代参勤交代の下級武士の間ではじまったと伝えられ、じゃんけんのもとにもなったという説もあります。

参勤交代は道中長いですし、とにかく道すがら暇つぶしが必要だったのかもですね。
こんなストリートファイトが数百年の昔に繰り広げられていたとは!

主な手の形は以下の0〜5の6形。数の多いほうが勝ちとなりますが、5は0に負けます。

つまり、指1本は指0本に勝ち、指2本は指1本に勝ち、指3本は指2本に勝ち、、、、と数が1つ多い拳を出した方が勝ちとなります。そして指0本は指5本に勝ち、それ以外はすべてアイコとなります。たしかにじゃんけんにとても似ていますね。

詳しくその勝ち負けを図解するとこういうことになります。

なるほど、、、6つの形が循環する勝敗システムです。

しかし、、、これはもう、3つの形の「じゃんけん」でよいのでは?と思ったあなた。

「いーーーちょ!」

この6手の形であることが、勝敗を極めて複雑なものにしているのです。

その秘密をさぐるべく、さらにくわしくルールを聞いてみました。

球磨拳のルール

その一.互いに向かい合います。
その二.「ひい」「ふう」「さん」のかけ声で0から5までのどれか一つを作って同時に出し、数の一つ多いものが勝ちとなります。(ただし、0は5に勝ちます)
その三.2回連続で勝つと勝利となり、拳棒(目の前に置いてある棒)を1本取る。

1回目勝つときに「イチ!」とか「いっちょ!」とかのかけ声をかけます。
2回目勝つときには、「に!」というかけ声をかけて勝利となります。(怒号はこの勝利のかけ声だったのですね)
棒の数は5本であったり10本であったりとそれぞれですが、最終的には取り合った棒の数で勝敗が決まります。

さらに、負けると酒を飲まなくてはならず、、、負ければ負けるほど酔っ払うというシステムがあるそうです。
うーむ。複雑なシステム。この6つの手の形をあのスピードで繰り出すとは、なんとなくボケ防止にも良いかもしれません!

そんな中、ひときわものすごい形相で拳を繰り広げる御仁が! この変幻自在の指と顔!ただ者ではありません。

実際の動きを収めた映像はこちらになります。↓

 

肉眼でとらえるのも難しいほどのスピード感(写真はピントがぼけているのではないかという説もあります)こちらの方は、この日の大会で優勝を決めた甲斐さん。

この日は総当たり戦となりましたが、見事最多の勝ち星を挙げられていました。

優勝の副賞は、、、
酒です。

ちなみに、二位と三位の副賞は、、、
酒です。

負けても勝っても酒が飲める、危険な「酒豪遊技 球磨拳」であることが分かってきました。

大会の終わりに優勝者の甲斐さんに、いちばん好きな手の形「1」の形で決めポーズをとってもらいました。

「いーーーーっちょ!」びし!!

あらっぽい武士達が開発した暇つぶしに酒飲みながら楽しめる勝負事、球磨拳。

これが現代にも残って伝わるなんて、なんとも奥の深い人吉球磨!
みなさんも、是非知られざる拳の遊技球磨拳をやってみてください。。。
ちゃんちゃん。

、、、と終わるはずが、ここで信じがたい言葉を耳にして、私は追加取材に向かうことになるのです!

球磨拳は「世界大会」も開かれています。

永井さん:「実のところ、球磨拳は毎年世界大会もひらかれているんですよ」

フルーマン:「な、なんと、、、世界大会?この知られざる遊技が世界規模で戦われているというのですか?」

永井さん:「はい。しかも世界王者のシーバさんという方が多良木町にいます。」

フルーマン:「な、なにー!シ、シウバ???、、、もし聞き間違いだったら訂正してほしいのですが、まさか『戦慄の膝小僧』と呼ばれたPRIDEミドル級の絶対王者ヴァンダレイ・シウバのことですか?」

永井さん:「一応お答えしますと、完全な聞き間違いです。そしてシウバではなくて、椎葉(しいば)さんです。近くに住んでいらっしゃるのでお会いしますか?」

な、なにー、よしんば聞き間違いだったとしても、これは屈強そうな名前。危険な匂いが漂いすぎますが世界を極めた男が多良木町に居ると聞いては、会わずにはいられない。

世界王者に会うのはよくよく考えたら初めての体験。危険とは分かっていてもその方にお会いするしかないと直感しました。
果たして生きて取材を終えることができるのか?胸の高鳴りをおさえつつ、教えて貰った椎葉さんのお宅に向かいました。

 

世界王者のご自宅に到着しました

ほどなく、椎葉さんのお家について

出迎えてくれたのは、椎葉さん宅を守る番犬。

意外にも可愛い小型犬ですね。よーし、よしよし、と近づいた刹那!!

ガルルルル。。。。凄い剣幕でこちらを威嚇してきました。

さすが世界王者の番犬です。

これは、あなどれない。このような闘争心溢れる小型犬を飼われている椎葉さんご本人はいかなる人物なのか?そして、奥座敷に通されると、椎葉さんが現れ、球磨拳について語ってくれました。

こちらが、私が初めてお会いする「世界第一位」の称号を持つ椎葉さんです。すべてを見透かすような鋭いまなざしのお方です。しかし、この方が本当に世界タイトル保持者なのでしょうか。

さっそくで恐縮なのですが、、、、もちろん疑うわけではないのですが、、、、本当に世界王者なのでしょうか?何か証でもありますのでしょうか?

椎葉:「はい。こちらが2015年大会で優勝したときの賞状です」こ、これはまぎれもなく、世界大会優勝の賞状!!!
この方は間違い無く世界第一位の称号を持つ王者でした。

椎葉さんに聞くところによると球磨拳を始めたのはだいたい高校生くらいからとのこと。
人吉球磨の家々では、昔から大人達が集まっては球磨拳が繰り広げられていて、それを見よう見まねではじめて、この地方の子ども達は、だいたい大人になっていくそうです。
現在では小学生たちにも浸透しており、椎葉さんは球磨拳の保存会のメンバーでもあります。
そして現在のところ世界大会には小学生の部もあります。

世界王者に教わる、勝つ秘訣とは?

球磨拳で勝つ秘訣のようなものはあるのでしょうか?念のため聞きますが、じゃんけんみたく、ただの運じゃないのでしょうか?
身の危険も顧みず、身も蓋も無い赤裸々な質問をぶつけてみました。

椎葉さん:「じゃんけんは運の要素もあるかもですが、球磨拳は運だけでは勝てません。たとえば初段の人が五段の人に勝つというのはまず無理じゃないかな??」

フルーマン:「段???球磨拳には段があるんですか?」

椎葉さん:「毎年昇段試験があり、段を取得することができます。球磨拳は経験がものを言う競技なんです」

なんと、運だけでは勝てないどころか、段がある?どうやって決めるのでしょうか?謎は深まるばかりでしたが、椎葉さんも有段者とのこと。それならと、ちょっと球磨拳の手合わせを願うことにしました。「ひい」「ふう」「さん」ので初めて、しばらくはアイコが続いたかと思いましたが、数手の後、、なんとおどろきのストレート負け!

こ、これは一体、、、、?

椎葉さん:「勝つ秘訣は早く読み切ること。人には出し方のクセが必ずあります。動作をみてるとだいたいわかるようになってきます。」

なんと、有段者になれば、「次はこれを出す」ということを読み切っているとのことでした!よく、達人の手にかかると、投げられたことも分からないうちに相手が投げられているという話しを聞いたことがあります。丁度まさにそんな感じでした。
なぜ負けたのかがわからない。。。

世界王者 椎葉さんが伝えたい球磨拳

椎葉さんの考える球磨拳とはどういうものなんでしょうか?椎葉さん:「やっぱり綺麗な拳を打ちたいですね」

聞くところによると、球磨拳は6手の形を出し合うのですが、そのうち、0と1、それと4と5がちょっとまぎわらしい出し方の人もいるとのこと。

どういうことなんでしょうか?

椎葉さん:「例えばこうですね。5の形も微妙に4なのか5なのか分かりにくいところで出すのは汚い拳ということです。」↑これが綺麗な5の形↑これが微妙な5か4かまぎわらしい形。たしかにビミョー!

椎葉さんは、なんともクリーンな世界王者です。やはり頂点に立つ男の言うことは違いますね。

世界王者 椎葉さんが考える理想の勝ち方とは?

そんな椎葉さんの考える、理想の球磨拳の勝ち方を聞いてみました。

椎葉さん:「それは、まむしのふたおさえですね」

フルーマン:「マムシのフタオサエ、、、?どういう状況なんでしょうか?技の名前を聞いただけでは皆目検討がつきません。」

椎葉さんのご説明によると、『まむしのふたおさえ』とは、0を出した相手に最初1で勝って、次も1で勝つという連続コンボのような技とのこと。

1の手の形をマムシに見立てて、2回(ふたつ)連続で相手の0を押さえ込むように勝つことから『蝮の二抑え(まむしのふたおさえ)』と呼ばれているということでした。

球磨拳が連続2回勝って初めて一本取れるということから、このコンボが決まった瞬間は、スト2で言うところの相手をボコったような手応えになるのでしょうか。それは爽快きわまりない瞬間ですね。

 

みんなもやってみよう。世界にひろがる球磨拳

ということで、今回は世界王者に何気なくたどり着き取材をしてみました。
球磨拳は毎年10月ごろに多良木町で世界大会が開催されています。
みなさんも是非多良木に来てみて世界大会を目撃してみてはいかがでしょうか?

「いっっっちょ!に!」

球磨拳世界大会など詳しい情報はこちらをご覧ください。
多良木町HP
http://www.town.taragi.lg.jp/…/kyou…/syakai_kyoiku/1413.html

球磨拳

ウェブサイト
http://www.town.taragi.lg.jp/